【事例あり】研修計画の立て方とは?立案ポイントと手順を解説!
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「人材育成はOJTに頼りがちだが、このまま現場任せで必要な人材が育つだろうか?」
株式会社商工組合中央金庫が中堅・中小企業を対象に行った2022年8月の調査[1]では、人材育成の体制について「現場に任せている」「特に決めていない(都度判断している)」が合わせて約6割という結果でした。
同調査では、人材育成を進める上での課題として「人材育成に時間をかける余裕がない」「体系だった育成プログラムの策定が難しい」などが上位に挙げられています。
また、東京商工会議所が2023年9月に実施した調査[2]では、「研修・教育訓練の年間計画や人材育成に関する中長期的な方針・計画をともに定めている」と回答した企業は約2割(22.8%)にとどまりました。
このように、計画的・組織的な人材育成の体制は十分に整備されているとはいえない状況です。
多くの企業が人材確保に課題を抱える現代、採用した人材を自社の戦力へと育てることの重要性は高まっています。これまで人材育成を現場に任せてきたという場合、これからは体系だった計画に基づく戦略的な人材育成が求められるでしょう。
本稿では、研修計画の目的や重要性を踏まえて、計画の立て方のポイントを解説します。また研修計画を取り入れ教育の体系化を推進した企業事例を紹介します。
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目次
1. 研修計画とは
研修計画は、研修をはじめとする人材育成の取り組みについてあらかじめ計画を立てることです。
1-1. 研修計画のパターン
研修計画は、以下のようにいくつかのパターンに整理できます。
- 組織全体の年間計画・中長期計画
- 階層別や職種別など、特定の対象者に向けた一連の研修の実施計画
- テーマ別など、個別の研修の実施計画
組織の人材戦略や経営課題に対して成果につながる人材育成施策を実施するためには、いずれのパターンの研修計画も欠かせません。
1-2. 研修計画の目的
研修計画とは、単に予算やスケジュールを決めればよいというものではありません。研修計画を立てる目的は、経営戦略の実現に向け、人材育成面での施策を効果的に実施することです。
研修計画を立てないままだと、どのような問題があるでしょうか。現場任せのOJTだけでは、環境によって教育の質がばらつくことは避けられないでしょう。
あるいは、情報漏えいやコンプライアンス違反など問題が起きてからその都度行うような研修では、場当たり的で本質的な課題解決にならない恐れもあります。
ある程度組織的に研修を行っていたとしても、研修の目的を明確化し、それに沿った計画を立てないと、あまり意味を成さないことも考えられます。典型的な例だと、定番の研修だからと毎年同じ内容を繰り返し、研修が形骸化してしまうなどが挙げられます。
研修を効果的に行うには、経営戦略や人材育成の方針との関連を明らかにし、目的に沿って研修計画を立てることが重要です。計画を明確に示すことで、社内での人材育成施策の認識共有や、従業員が研修に臨むモチベーション向上を図ることもできるでしょう。
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2. 研修計画が人事施策に欠かせない理由
研修計画が必要とされる背景には、近年見られるいくつかの人材に関する課題が考えられます。
2-1. リスキリングの需要の高まり
人材不足が叫ばれる中、既存人材の活躍を促進する取り組みは多くの企業にとって不可欠です。変化に対応し、自社が必要とする人材へと成長してもらうために、従業員のリスキリングに対して必要性を感じている企業も多いのではないでしょうか。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査[3]では、リスキリング・学び直しへの期待がある企業は6~8割にも上りました。
同調査ではさらに、リスキリングの企画・推進において、企業の人事部門や人材開発・育成部門、経営層、ライン管理職などの関与が成果実感の有無に影響する可能性が示唆されています。
従業員個々の自己研さんに任せるのではなく、求める人材像を示し、リスキリングを含むキャリア形成を組織として計画的に支援することが求められるといえるでしょう。
2-2. 従業員の定着率向上
人材の確保には、従業員の離職を防ぐ施策も欠かせません。研修の質のばらつきをなくし、またキャリアの見通しを示すことで定着を促すことも手立ての1つです。
これらは従業員が自身の希望に沿わない配属先に不満を抱く、いわゆる「配属ガチャで外れを引いた」という状況を生じさせないためにも軽視できません。
研修の質の均一化やキャリアの見通しの提示には、中長期的な視点で研修計画を立て実施することが必要です。例えば、階層別研修などを計画的に行うことで、従業員がキャリア形成の過程で直面しがちな課題に適切なタイミングで対処できるでしょう。
3. 研修計画の立案に必要な4つのポイント
研修計画を考える上で押さえておきたい考え方の1つに、インストラクショナルデザイン(Instructional Design:ID、教育設計)があります。教育の効果・効率・魅力を高めることを目指し、学習の目標=成果を起点として体系的に教育を設計する考え方です。
ここではIDの考え方を踏まえ、研修計画のポイントを4点にまとめました。なお、研修会社など外部機関の研修を利用する場合でも、自社の経営課題や人材育成の方針にマッチした研修を実現するために、これらの検討は必要です。
キャリアパスや人材育成の課題を明確にする
有効な研修計画を立てるには、自社に必要なのはどのような人材か、そのために解決すべき人材育成の課題は何かを明らかにしなくてはなりません。中長期経営計画や企業理念から求める人材像を明文化し、必要な知識・スキルを棚卸しするとよいでしょう。
求める人材像に向けた研修計画を立てるには、必要な業務経験やスキルなど、特定の職位や職務に至るまでの過程や道筋を示すキャリアパスの整理が望まれます。
キャリアパスの策定には、厚生労働省の定める「職業能力評価基準」などが参考になります。株式会社ライトワークスが提供するLMS「CAREERSHIP」は、職業能力評価基準を基にしたスキルテンプレートも備えており、キャリアパスに沿った教育基盤として企業の人材育成施策を支えます。
関連 ▶ キャリアパスとは 優秀な人材確保につながる、従業員の意欲向上施策
研修の目的を明確にし、何を成果とするかあらかじめ定めておく
目的が曖昧なまま研修を行っても、その成否を正しく評価することができません。時間やコストをかけて研修を実施しても、課題に応える成果に結び付かなければ無駄になってしまします。
そこで重要なのが、研修の目的を計画段階で具体的に設定することです。成果は具体的な行動や定量的に測れるものが望ましいでしょう。成果を測る指標も併せて定めておくことが重要です。
研修の目的をあらかじめ明示することは、受講者のモチベーションにも関わります。事前アンケートを利用するなどして、研修の開始までに目的意識を高める取り組みも有効でしょう。
職場での行動につながるよう設計する
多くの場合、研修のゴールとして期待されることは学んだ内容の業務での活用でしょう。研修内容は実際に仕事をしている従業員のニーズに応える内容になるように設計すると合理的です。
近年注目される言葉にラーニングトランスファー(Learning transfer:学習移転)というものがあり、研修などで学んだ内容を職場で実践することを指します。仕事上のニーズに応じた研修内容や職場でのフォローアップなどが、ラーニングトランスファーの促進につながるとされます。
さらに、研修を踏まえて受講者にアクションプランを立ててもらい、社内で共有する運用も有効です。アクションプランは学んだ内容を実践するための意識付けや指針となるだけでなく、周囲に共有することで実践を支える環境づくりに活用できます。
効果測定・研修の改善を含めて計画する
研修は実施したら完了ではありません。研修後の効果測定や改善サイクルも、研修計画のフェーズで設計しておくことが重要です。
効果測定というと研修修了時のアンケートがイメージされますが、それだけでは「研修内容はどの程度定着したか」「職場でどのような行動変容が見られたか」などは分かりません。数週間~数カ月など期間を空けて、スキルの定着度合いや実践の様子などをチェックする仕組みが必要です。
研修の設計から、実施、成果の確認や課題の分析、それを踏まえた研修内容の見直しや教育施策の改善までを計画に組み込みましょう。
4. 研修計画の立て方を6ステップで解説
ここでは、研修計画を立てる手順の例を紹介します。
4-1. ステップ1:予算の確保
研修の規模や実施できる内容は少なからず予算に制約されるため、予算の確保は早い段階で必要です。事業計画や過去の研修費用から、必要な予算を概算し割り当てます。
研修の内容や計画によっては、公的機関の助成金・補助金制度の対象となるケースもあります。予算に余裕ができれば、外部の研修サービスの利用など選択肢が広がるため、要件や申請方法をあらかじめリサーチしておくことをおすすめします。代表的な制度に厚生労働省の人材開発支援助成金があります。
4-2. ステップ2:研修のゴールと成果の設定
前章で述べたように、研修の目的を明確にし、その達成を軸に設計することが研修の成功の鍵となります。詳細なカリキュラムの前に、研修修了時の到達目標や、成果を測る指標について設定しましょう。
研修のゴールを明確にすることで、他の教育施策との兼ね合いを考慮しやすく、受講対象者のレベルや実施時期の適切な設定につながるなど、研修の精度を上げることができます。
4-3. ステップ3:カリキュラムと実施方法の検討
研修の予算やゴールが決まったら、いよいよ実施に向けて具体的に内容を詰めていきます。研修の目的を実現できるかどうかを基準にカリキュラムを策定しましょう。過去に実施した研修の分析などから、改善すべき点があれば反映します。
受講対象者は、職務やレベルで細かく絞る、幅広く希望者を募るなど、目的と内容に合わせて適切に設定します。
研修の実施方法には、以下のようにさまざまな選択肢があります。費用対効果を考慮しながら研修の目的達成に適した方法を選びましょう。
- 自社で実施or外部委託(講師派遣、研修サービスなど)
- 集合研修orオンライン研修
いくつかの研修やeラーニングなどを組み合わせてコースを構成する方法もあります。中には、特定の研修の修了や課題の合格が別の研修の受講資格になるといった、複雑な管理を要する場合もあるかもしれません。
研修計画に沿った研修管理にはLMSが便利です。株式会社ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」にはコース管理機能があり、さまざまな形式の研修や教材、アンケートなどを組み合わせてコースを作成できます。
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4-4. ステップ4:スケジュールの調整・場所の確保
各研修の日程や場所を決定していきます。優先的に日程を決めるべきなのは、以下のような条件のある研修です。
- 新入社員研修など実施時期が決まっているもの
- 多くの従業員に参加してほしいもの(繁忙期を避けるなど)
- 研修会社や外部講師など、関係者との調整が必要なもの
会場の手配も余裕を持って行いましょう。受講者が多い、特別な設備が必要など、実施できる場所が限られる研修は特に注意します。
4-5. ステップ5:個別の研修実施内容の検討
それぞれの研修について、実施に向け詳細な内容を決めていきます。プログラムやタイムスケジュール、使用する設備など、当日の流れを具体的に想定して計画します。受講者やスタッフの動きについて、集合から解散までシミュレーションしておくと安心です。
教材や印刷物など事前に準備が必要なものがあれば、余裕を持って手配しましょう。アンケートやレポートの実施・回収、効果測定や研修実施報告といった、研修後に発生する作業についても、忘れず計画に含めます。
外部講師に依頼する場合や、会場が自社以外の場合は、必要に応じ打ち合わせや確認を行います。
4-6. ステップ6:従業員への周知・受講管理
スケジュールと受講対象者が決定したら、従業員が研修に向けてスケジュールを調整できるように速やかに周知します。受講対象者との連絡や出欠確認、成績管理などの受講管理は漏れのないように行いましょう。
研修の種類や従業員が多いほど、受講管理が複雑になりがちです。LMSで受講管理を行えば、多くの煩雑な作業を自動化でき、管理部門の負担軽減に役立ちます。また、管理者・受講者ともに研修スケジュールや受講状況を容易に確認できる点もメリットです。
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5. 研修計画を取り入れた企業事例
最後に、株式会社イオンファンタジーの中国子会社、永旺幻想(中国)児童遊楽有限公司(以降、イオンファンタジー(中国))の取り組みを紹介します。教育を体系化し、研修にかかるコストの削減と学びの質・量の向上に成功した事例です。
イオンファンタジー(中国)の従来の教育体制は以下の形式でした。
- 店長とエリアマネージャー:全国の対象者が一堂に会する集合研修
- 店舗スタッフ:OJTと店舗に置いてあるマニュアル閲覧
しかし店舗数の急速な拡大に伴い、こうした形式では十分な育成が見込めなくなってきます。
そこで同社が取り組んだのが、教育の軸をオンラインに切り替え、LMS導入に合わせて教育の体系化を推進することです。
独自の人材管理方法や自社が抱える問題に即した教材を作るため、500を超える教材を内製しました。学ぶべき内容を以下の3つに分類し、漏れのないように体系化したといいます。
(1)企業理念や規則、目指すサービスの在り方
(2)各部門の具体的な業務内容
(3)専門職や役職ごとに求められる知識・能力
教育部門では、強化すべき学習対象者をターゲティングして研修計画を立案し、従業員の学習を促進しています。また階層別研修は、ビジネスのニーズに応じてトピックや目標を設定したコース形式で行われます。
一連の取り組みの結果、同社のオンライン研修が日本や東南アジアを含む全てのグループ企業内でNo.1に選ばれるなど、優れた教育体制を実現しました。
キャリアパスが明確であること、より高い役職へとスタッフをしっかり育成・登用することが、スタッフのやる気につながっているといい、離職率も低く抑えられています。
このような体系的な教育を支えるのが、株式会社ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」です。豊富な機能で、独自教材や研修を組み合わせたコース設計といった柔軟な教育デザインを可能にします。
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6. まとめ
研修計画とは人材育成の取り組みについてあらかじめ計画を立てることを指し、経営戦略の実現に向けて人材育成面での施策を効果的に実施することが目的です。研修計画には以下のようなパターンがあります。
- 組織全体の年間計画・中長期計画
- 階層別や職種別など、特定の対象者に向けた一連の研修の実施計画
- テーマ別など、個別の研修の実施計画
経営戦略や人材育成の方針との関連を明らかにして研修計画を立てることで、現場による教育の質のばらつきや、研修の形骸化を防ぎます。リスキリングや従業員の定着を促進するためにも、組織として教育施策を計画的に実施し、キャリアを支援することが求められます。
研修計画を立てる際は、インストラクショナルデザインの考え方を踏まえるとよいでしょう。ポイントを以下の4点にまとめました。
- キャリアパスや人材育成の課題を明確にする
- 研修の目的を明確にし、何を成果とするかあらかじめ定めておく
- 職場での行動につながるよう設計する
- 効果測定・研修の改善を含めて計画する
研修計画を立てる手順の例は以下の通りです。
- 予算の確保
- 研修のゴールと成果の設定
- カリキュラムと実施方法の検討
- スケジュールの調整・場所の確保
- 個別の研修実施内容の検討
- 従業員への周知・受講管理
最後に、研修計画を取り入れた企業事例として、イオンファンタジー(中国)の取り組みを紹介しました。
LMS導入とともに教育を体系化、強化すべき対象者をターゲティングした研修計画など自社の課題に応える教育体制を作り上げ、研修にかかるコストの削減と学びの質・量の向上に成功した事例です。
自社の課題に応える教育施策に、研修計画は欠くことのできないものです。体系的な教育を実現するための一歩として、本稿が役立てば幸いです。
[1] 株式会社商工組合中央金庫「中小企業の人材育成の状況について(2022年8月商工中金景況調査トピックス調査分)」,2022年10月28日公表,P11,P15,(閲覧日:2024年8月19日)
[2] 東京商工会議所「研修・教育訓練、人材育成に関する調査【集計結果】」,2023年11月公表,P3,(閲覧日:2024年8月19日)
[3] 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「「企業における『リスキリング』『学び直し』の推進に関する実態調査」の結果を発表」,『リクルートマネジメントソリューションズ』,(閲覧日:2024年8月19日)
参考)
鈴木克明「インストラクショナルデザイン―学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指した技法―」,『電子情報通信学会 通信ソサエティマガジン No.50 秋号 2019』,https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/13/2/13_110/_pdf(閲覧日:2024年8月19日)
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ「機関誌RMS Message vol.43(2016年8月)」,https://www.recruit-ms.co.jp/research/journal/pdf/j201608/m43_all.pdf(閲覧日:2024年8月19日)
ミテモ株式会社「研修計画の立て方とは?押さえておくべきポイントと失敗例」,『mitemo』,https://www.mitemo.co.jp/column/training%E2%80%90design01/(閲覧日:2024年8月19日)
株式会社Schoo「研修計画の立て方とは?プログラムの内容や効率的な進め方について解説」,『Schoo for Business』,https://schoo.jp/biz/column/442(閲覧日:2024年8月19日)
株式会社プラスアルファ・コンサルティング「効果的な研修計画の立て方6ステップ!5つのポイントや参考例を紹介」,『Talent Management Lab』,https://www.pa-consul.co.jp/talentpalette/TalentManagementLab/training-plan/(閲覧日:2024年8月19日)
株式会社日本経済新聞社「研修スケジュール(個別タイムテーブル)立て方と具体的なスケジュール例を紹介」,『日経ビジネススクール』,https://school.nikkei.co.jp/feature/hr/contents/method/15(閲覧日:2024年8月19日)
厚生労働省「人材開発支援助成金」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html(閲覧日:2024年8月19日)