スキル評価とは?基準やガイドライン、スキルマップの活用、企業事例も紹介

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スキル評価とは?基準やガイドライン、スキルマップの活用、企業事例も紹介

誰もが納得するスキル評価を実現するには、仕組みづくりが大切らしい」

雇用の流動化が進み人材不足が深刻化する中で、従業員が持つスキルはますます重視されています。個々のスキルを最大限に生かすことができれば企業の生産性は高まり、従業員エンゲージメントが向上して人材の長期定着も期待できます。

今、こうした視点で従業員のスキル管理に取り組む企業にとって、スキル評価の方法を見直すことが重要な課題となっています。多様なスキルを適切に評価するためには、従来のように評価者の勘や経験に依存しない明確な基準やガイドラインが必要です。

本稿では、企業が直面しているスキル評価の課題を明確にした上で、適切な評価がもたらすメリットやその実践方法について詳しく解説します。スキル評価に工夫を凝らす企業事例も紹介しますので、人事担当者やマネージャークラスの方は、ぜひ参考にしてみてください。

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スキル評価とは?

スキル評価とは、従業員が業務を遂行する上で必要とする知識や能力、経験の有無、達成度を評価し、これらを分かりやすく可視化することです。評価者による格差の軽減、被評価者の納得感の向上などに焦点が当てられます。

なぜ今スキル評価が重要か

従来の日本企業では、従業員の能力評価は「組織の一員として有能であるか」という視点から行われていました。これはいわゆる「メンバーシップ型」の組織運営であり、企業内での勤務年数や経験に応じて従業員の職能を評価するものです。

一方、昨今はジョブディスクリプションなどによって職務内容を規定し、これを雇用や人材管理に反映させる企業が増えています。ここでの能力評価の視点は「仕事を充当できるかどうか」です。組織運営は「ジョブ型」に移行し、人事評価においてはスキルの査定が重要となります。

さらに近年では、この「ジョブありき」のビジネスモデルさえも変化してきました。仕事を人に割り当てるのではなく、一人一人のスキルを細分化し、これらを生かして職務管理を行う「スキルベース型」の組織が展開しつつあります。

このように組織が個人のスキルを軸に変化していく中、スキル評価の方法を見直すことは多くの企業にとって急務となっています。

スキル評価の課題

「組織の一員」としての能力を重視してきた従来企業がスキル評価に取り組む場合、さまざまな課題に直面します。従来の評価のあり方が属人的で基準が曖昧であることが多いからです。漠然とした「人となり」から明確な「スキル」へと、評価の認識を大きく変える必要があります。

またIT技術の発展によるスキルの専門性、多様なニーズを充足するためのスキルの広範性など、スキルが多様化することは評価基準の設定をより難しくします。業務の変化スピードが増せば、こうした基準の更新も頻繁に行わなければなりません。

このようにスキル評価の基準が複雑化すると、これらを理解して適切に実践するために評価者が費やす時間やコストも増大します。特に人事評価において評価者の感覚や経験年数が占める割合が大きい企業では、評価者の意識転換のハードルも上がります。

企業が新たにスキル評価に取り組もうとする場合、まずは自社のこうした現状を把握した上で、必要な準備期間を設けることが大切です。

関連 ▶ 【事例あり】人事評価制度とは?評価基準や方法、導入ステップを解説(弊社ブログサイトへ移動します)

適切なスキル評価がもたらすメリット

課題は少なくないものの、適切なスキル評価は従業員と企業の双方に大きなメリットをもたらします。

経済産業省が公表した「令和5年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2024年版ものづくり白書)によれば、従業員の育成・能力開発の環境整備において特に効果が実感されているのは、「能力評価制度の導入」「目標管理を通じた能力の棚卸し」「個人ごとの育成計画の作成」であることが分かりました[1]

こうした結果からも、評価制度やスキル定義の見直し、それに伴う人材育成計画の策定には一定の効果があることが示されます。では、具体的にスキル評価にはどのような効果が期待できるのでしょうか。

従業員の納得感が生む効果

評価者による格差が生じない適切なスキル評価は、従業員が働く上でのモチベーションに大きく影響します。

まず適切なスキル評価のためには、個々の従業員が達成すべきスキルが明確に定義されることが前提です。従業員があらかじめ担当業務に必要な知識や能力、具体的な経験を把握できるからです。スキル評価が設定されたスキル目標に対する達成度を示すものであれば、評価に対する従業員の納得感は大きくなります。

ここでスキルの過不足が可視化されれば、従業員は業務への取り組みにおいて今後目指すべきことがわかり、自身の成長を意識できることになります。自己のスキルアップと業務の成果が直結することで、業務に対する貢献意欲が高まるでしょう。

このように従業員の納得感を伴う適切な評価プロセスは、従業員エンゲージメントを醸成し、結果的には長期的な定着を促すことにつながります。企業が明確な評価基準や方法を明示することで、採用優位性が増すことも期待できるでしょう。

人材管理における効果

適切なスキル評価によって従業員のスキルレベルが可視化されることは、人材管理においてもさまざまなメリットをもたらします。

その最たるものは適材適所の人材配置です。評価を通して従業員の持っているスキルレベルが明示されれば、必要な業務への人材配置をスムーズに判断できます。情報のリアルタイムな収集は、新規事業の立ち上げなど経営判断のスピードアップにも役立ちます。

またスキルレベルの把握は人材育成計画の策定においても有効です。従業員が現状不足しているスキルを上司や人事部門が共有し、OJTや研修などで的を絞った効率的な学習を促すことができます。もちろん、人事部門が教育施策を立案する際にも有用な資料となるでしょう。

こうした効果をもたらす適切なスキル評価を実施するためには、分かりやすいデータの可視化や共有の方法が鍵を握ります。この後、その方法について詳しく見ていきましょう。

スキル評価の方法

スキル評価のスタートは、業務において求められるスキルを的確に定義することです。そのためのツールとしては「スキルマップ」が有効です。スキルマップとは会社の業務内容に応じた従業員のスキル項目と達成レベルを一覧表にしたものであり、スキルの体系化や設計に便利な手段です。

 図:ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のスキルマップ

ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のスキルマップ

スキルマップの作成においては、まず目的や対象を明らかにしてから、対象となる職種ごとの業務プロセスを明確化します。さらにヒアリング調査によって業務ごとのスキルを洗い出し、一定の指標を持ってスキルを分類、定義していきます。

続く節では、分類、定義されたスキルを評価する方法や手順について取り上げていきます。スキルの分類や定義を含むスキルマップの具体的な作成方法については、ぜひ下記の記事を参照してください。

適切な段階評価とは?

スキル評価ではスキルレベルを正確に把握することが重要であるため、スキルの達成度を客観的な数値で表すことが有効です。しかし、実際に何段階にすればいいのか迷うかもしれません。

それぞれの評価方法には、メリットとデメリットがあります。これらを理解しておけば、項目に合わせて評価段階に変化を付けるなど、メリハリのあるスキルレベルの把握につながります。

資格の有無などを問う場合、「ある」「なし」を示す2段階となりますが、ここでは3段階以上の程度を問う以下の3種類を解説します。

3段階評価

3段階評価は「良い・普通・悪い」とシンプルな区分であることから、判断に時間をかけずに決められることが利点です。4段階以上になると理由付けが必要になり、直感的に判断することが難しくなります。

一方、判断に迷った場合に中央の数値に偏りやすい傾向があるため、評価者が判断しやすい評価内容によって基準を明確に示す必要があります。

5段階評価

5段階評価は「良い・どちらかといえば良い・普通・どちらかといえば悪い・悪い」という区分です。3段階では「普通」に集約される評価も「どちらかといえば」という選択肢が広がります。また、最高値や最低値のレベルを顕著に示せることもメリットです。

ただし区分が多くなるほど判断がしにくくなり、中央に近い評価が増えることも否めません。より具体的で程度の差を示すことができる評価内容の設定が求められます。

6段階評価

6段階評価は、5段階よりさらに正確かつ具体的なスキルレベルを把握する評価方法です。中央の数値がないため、偏りを防ぐ効果もあります。

6段階評価については、内閣人事局・人事院が公表している人事評価の基本的枠組み[2]が好事例です。国家公務員の能力および業績評価を「卓越して優秀・非常に優秀・優良・良好・やや不十分・不十分」と区分しています。

本区分は2021年に5段階から6段階へと改正されています。その背景にあるのは「S・A・B・C・D」の5段階としていた際、AとBの評価だけで9割を超えていた[3]という事実です。評価の曖昧性や属人性に切り込む改革といえるでしょう。

学習管理システム(LMS)でスキル評価シートを作成

既存の人事評価制度を変革したいと考える企業であれば、現状では差が付きにくい区分や評価内容を見直し、個々のスキルレベルを明確に可視化する段階評価を工夫することが大切です。

学習管理システム(Learning Management System:LMS)を利用すれば、評価区分や評価内容を手間なく設定できるだけでなく、スキル評価の可視化や共有などもスムーズに行うことができます。

LMSとは、従業員の学習の状況や履歴を管理できる社内共有システムのことです。LMSの中には学習プログラムの選定の根拠となるスキル管理機能を備えたものもあり、スキル評価を可能とする評価シートとして「スキルマップ」の活用が可能です。

一例として、当社のLMS「CAREERSHIP」は、従業員に求められるスキルや評価基準が一覧化されており、評価者、被評価者共にオンラインでいつでも確認が可能です。客観的な基準が明示されているので、評価制度の透明性も担保できます。

また「CAREERSHIP」には○×や多段階評価、点数評価など、評価方法を自由に設定できる機能、さらには自己評価と上長評価を比較できる機能が備わっています。評価の適切性を高める仕組みがシステム上で管理できるため、マネジメントの省力化に役立てられるでしょう。

ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のスキルマップ

従業員のスキルを可視化できる!⇒「CAREERSHIP」スキル管理機能を詳しく見る

評価基準やガイドラインの作成に有効な資料

評価の区分や内容の検討など、評価基準やガイドラインを作成する際には、スキル項目やスキルレベルが体系的に整理された公的な基準が参考になります。

特に役立つのが、厚生労働省が整備している「職業能力評価基準」です。この基準に基づいて提供されている職業能力評価シートでは、さまざまな業種ごとに職種・職務・レベル別の評価基準が提示されており、企業ごとにカスタマイズして利用することができます。

当社の「CAREERSHIP」において「スキル管理機能」を導入いただいたお客様には、厚労省の「職業能力評価基準」を基に作成したスキルテンプレートを無償で提供しています。スキル評価、およびその結果に伴う学習プログラムへのひも付けが可能です。

厚生労働省「職業能力評価基準」がベース!⇒「CAREERSHIP」のスキルテンプレートを確認する

また近年では、DX推進に伴う新たなスキル基準が求められており、このニーズに応えるため経済産業省が「デジタルスキル標準」を設定しました。全てのビジネスパーソンが身に付けるべきスキルとして「DXリテラシー標準」、DXを推進する人材の役割や習得すべきスキルとして「DX推進スキル標準」が詳細に解説されています。

DX時代の全ての組織人に求められる知識やマインド、スキルの指針が示された「デジタルスキル標準」は、今後のスキル評価に不可欠となるでしょう。

スキル評価を活用している企業事例

最後に、スキル評価にさまざまな工夫を凝らす企業事例を紹介します。

雪印メグミルク株式会社

雪印メグミルクは、多様な人材が個性と能力を最大限に発揮して成長し続ける企業を目指し、総合的かつ継続的なキャリア支援を実施しています。

中でもユニークな取り組みとして挙げられるのが、非正規社員への評価制度の導入です。年一度の能力評価において、基礎的な知識・技術や改善・工夫力、計画力、正確性・効率性などのスキルを査定し、昇給額の決定に反映させます。

また非正規社員は正社員と同様に通信教育の費用助成を受けられるだけでなく、年に一度、筆記試験と面接試験によって正社員転換ができる機会も与えられています。結果として直近3年間で49人が正社員へ登用されました。(2022年4月時点)

多様な人材を生かす取り組みとして、スキル評価の工夫が優れた人材の発掘に役立っているといえるでしょう。

株式会社SHIFT

「ONE-SHIFT」でITの総合ソリューションを提供するSHIFTは、グループ連結で約1.3万人の従業員を抱える企業です。従業員の自律的なキャリア形成が人的資源としての価値を高めると考え、明確な評価基準と公平な機会を軸とした人事マネジメントを行っています。

同社では明確な評価基準を根拠とすることにより、会社・上司・従業員が達成すべき目標に関して共通認識を持っています。従業員はシステム上で自分の状況を可視化し、5年後の年収目標を設定。上司は役員に対して年2回行われる「評価会議」で一人一人の従業員の成果を発表し、役員が評価に関わる時間は年間で563時間にも上ります。

その他にも必要な能力を検定に落とし込んで合格を促す独自のキャリア育成制度や、未経験でも異動を希望できるリキャリア制度などを設定。結果として検定受検率や年間昇給率が大きく上昇しています。

評価基準の明確さ、および公平な機会の提供が従業員の成長意欲につながっている好事例です。

えびの電子工業株式会社

えびの電子工業は従業員約600人の電子部品メーカーであり、宮崎県に本社を置き、宮崎県と鹿児島県に工場を保有しています。人手不足や採用難をきっかけに人事評価制度を刷新し、人材育成に力を入れたことが評価され、厚生労働省の「グッドキャリア企業アワード2022」で大賞に選出されました。

同社はまず評価方法として、採点重視の減点方式から育成重視の加点方式へと移行する「成長チェック」を採用。中でも「職制成長チェック」では、「何ができれば、どんな役職になれるのか」が分かる明確な指標を提示しています。この結果は特に女性の不安解消に貢献し、女性の管理職比率が2019年度に比べて2021年度 には2.4倍となりました。

また評価のフィードバックには、育成面談を導入しています。2021年度から管理職やその候補者に対し、プロのコーチを迎えたコーチング研修を実施。対話を通した成長支援の方法を学ぶことにより、自分本位ではなく相手本位で育成を考えるという意識改革につながっています。

評価方法の刷新と結果のフィードバックの工夫が、評価者と被評価者の双方に良い影響を与えています。

従業員のスキルを可視化できる!⇒「CAREERSHIP」スキル管理機能を詳しく見る

まとめ

スキル評価とは、従業員が業務を遂行する上で必要とする知識や能力、経験の有無、達成度を評価し、分かりやすく可視化することです。組織運営が「メンバーシップ型」から「ジョブ型」、さらには「スキルベース型」へと個人のスキルを軸に変化していく中、スキル評価の方法を見直すことは急務です。

その一方で、スキルが多様化することは評価基準の設定をより難しくするだけでなく、評価者が費やす時間やコストも増やします。まずは自社の現状を把握することが必要です。

事前に達成すべきスキルが明示された上で、評価が目標に対する達成度を示していれば、そこに納得感が生まれます。自己のスキルアップと業務の成果が直結していれば、従業員エンゲージメント、さらには従業員の長期的な定着を促すことも期待できます。

「スキルマップ」はスキル評価に役立つツールであり会社の業務内容に応じた従業員のスキル項目と達成レベルを一覧表にしたものです。「スキルマップ」を使ったスキル評価によって個々の達成度を客観的な数値で表す方法として、3段階/5段階/6段階の評価方法を解説しました。

学習管理システム(Learning Management System:LMS)従業員の学習の状況や履歴を管理できる社内共有システムです。LMSに付随するスキル管理機能を使えば、スキルマップをスキル評価シートとして活用できます。

当社のLMS「CAREERSHIP」であれば、評価者、被評価者共にオンラインでいつでも評価基準を確認できるため、評価の透明性が担保できます。評価の区分や内容の設定などもしやすく、評価の適切性を高める仕組みをシステム上で管理できます。

評価基準のガイドラインには、厚生労働省の「職業能力評価基準」と経済産業省の「デジタルスキル標準」が挙げられるでしょう。

最後に、スキル評価に工夫を凝らす企業として、雪印メグミルク、SHIFT、えびの電子工業を紹介しました。

今後の人材不足は避けられない問題であり、限られた人材のスキルを最大限活用することはどの企業にとっても必須です。スキル評価の方法を見直したいとお考えの皆さまに、本稿が少しでもお役に立つことを願っています。

[1] 経済産業省「令和5年度ものづくり基盤技術の振興施策」, 2024年5月31日公表, p59-60, (閲覧日:2024年7月5日)
※従業員の育成・能力開発を行っている企業のうち、経営面、人事面、それぞれにおいてその効果を「実感している」と回答した企業(それぞれ全体の15.4%および11.7%)について、それ以外の企業と比べた場合に特に差が大きかった項目を示しています。
[2] ⼈事院 「人事評価」, (閲覧日:2024年7月5日)
[3] 内閣官房「人事評価制度の概要」, 2020年10月1日公表,  p11, (閲覧日:2024年7月5日)

参考)
厚生労働省「職業能力評価シートについて」, https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08021.html(閲覧日:2024年7月5日)
厚生労働省「グッドキャリア企業アワード2022」, p9-12および  p21-24, https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001065024.pdf(閲覧日:2024年7月5日)
経済産業省「デジタルスキル標準」, https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html(閲覧日:2024年7月5日)
キャリアオーナーシップ経営AWARD 2024「受賞企業一覧」, https://co-consortium.persol-career.co.jp/com-award/awardwinner/index.htmlよりエントリーシートのダウンロードが可能(閲覧日:2024年7月5日)

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