【事例あり】行動変容が研修成功の鍵!実践を促すアプローチとは?
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「研修での学びを、業務にもっと活用してほしい」
従業員に研修を受講させても、その後、業務に役立てている様子がなかなか見えないという悩みはないでしょうか。研修後に何らかの目に見える変化がなければ、研修の費用対効果を示すことは難しいかもしれません。
研修の費用対効果を考える際、「行動変容」が鍵になります。研修で学んだスキルやマインドが定着し、実際の業務で活用されたことを確認できてこそ、研修の効果があったと言えるでしょう。
この記事では、いくつかの理論を参考に研修における行動変容について整理し、従業員に行動変容を促す具体的なアプローチを探ります。また行動変容を軸として人材育成施策に取り組む企業事例を紹介します。
もっと実務に役立つ研修を行いたい、研修の成果を目に見える形で示したいという方は、参考にしてみてください。
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目次
研修における行動変容の重要性
行動変容は文字通り、人間の行動が段階を経ながら変化していくことをいいます。もともとは禁煙などヘルスケアの分野で研究が進められ、人材育成やマーケティングといったビジネスの場でも注目されるようになってきました。
では、研修と行動変容の関係はどのようなものでしょうか。
時間とコストをかけて行う研修に期待されるのは、従業員がスキルや知識を身に付けること、そしてそれらを活用して組織の業績に貢献することではないでしょうか。研修で学んだ技能は、業務で実践されてこそ成果をもたらします。つまり、研修の成果は行動変容と不可分の関係と言えるのです。
このように、学習の目標=成果を起点として教育を捉えることは、昨今の教育設計において欠かせません。人材育成分野において重要性を増すインストラクショナルデザイン(ID)は、学習効果を高めることを主眼に、システム的なアプローチで教育を設計する考え方です。
研修の効果を考える上で、よく知られたフレームワークとしてカークパトリックモデルがあります。以下のように、研修の評価にはさまざまなレベルがあることを示したものです。
レベル1:Reaction(反応) |
研修がどの程度魅力的で、自分の仕事に関連していると感じたか |
レベル2:Learning(学習) |
意図された知識・スキル・態度などを習得した度合い |
レベル3:Behavior(行動) |
研修で学んだことを仕事に応用する度合い |
レベル4:Results(結果) |
研修とサポートの結果、目標とする成果がどの程度達成されたか |
こうした評価のレベルに応じて測定する方法は異なります。例えば、よく用いられる受講者への研修直後のアンケートだけでは、研修への満足度の評価はできても、学習内容の定着や行動変容という意味での「効果」は測れない恐れがあります。行動変容を測るには、適切な方法を取る必要があるのです。
行動変容を起こすには
行動変容はどのように起こるのでしょうか。ここでは代表的な理論を簡単に紹介します。
行動変容ステージモデル
行動変容のプロセスを整理した基本的なフレームワークに、行動変容ステージモデルがあります。人は行動を変えるまでに、以下の5つのステージを通るというものです。
- 無関心期
- 関心期
- 準備期
- 実行期
- 維持期
出典:松本千明「行動変容ステージモデル」,『厚生労働省e-ヘルスネット』,https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html(閲覧日:2024年12月5日)
このように、行動変容を起こす意図がどのくらいあるか、また明確な行動変容が観察されるかといった状況に応じて、ステージが区別されています。このモデルが研究されてきた主要な分野である、禁煙の取り組みをイメージすると分かりやすいのではないでしょうか。
行動変容を進めるには、対象者がどのステージにいるかを把握し、それぞれのステージに合った働きかけが求められます。またステージは常に順調に進むとは限らず、前のステージに逆戻りすることもあり得ます。
ナッジ理論
ナッジ理論は行動変容や意識改革を促す方法として近年注目されています。
ナッジとは「そっと後押しする」ことを意味し、本人に選択の自由を残しながらより良い方向に誘導する働きをいいます。行動経済学の分野で研究が進められたもので、必ずしも合理的な選択だけをするわけではない人間の行動特性を踏まえて、取り組みをデザインする考え方です。
現在ではさまざまな分野でナッジを利用したアプローチが広まっています。自治体でがん検診の受診勧奨などに利用されているほか、環境省は2017年4月に日本版ナッジ・ユニット(BEST)を設置し、省エネなどについて戦略的な広報・普及啓発を促進しています。
このナッジ理論を現場で使いやすくまとめたフレームワークに、「EAST」があります。英国内閣府傘下の組織The Behavioural Insights Team(BIT)によって開発されたもので、以下の各要素で構成されています。
Easy(簡単)
最も重要なのは、選択が容易であることです。対象者が望ましい行動を自然と選択するように提示し、意思決定のプロセスを減らすことを目指します。
Attractive(魅力的)
対象者にとって魅力になるものを適切に設定することで、行動の動機付けをします。インセンティブを与えるだけではなく、一度手にしたものを失うリスクを回避したいという損失回避の心理を利用した施策もよく行われます。
Social(社会的)
周囲や同じ立場の他者の動向が行動に影響することを利用します。多数の人がある行動を取っていることを示す、予定や目標を周囲に対して宣言する「コミットメント」を取り入れるなどです。
Timely(タイムリー)
行動変容には働きかけのタイミングも重要です。対象者の関心が高まる機会を逃さずに、行動を促すように適切にアプローチする必要があります。
行動変容を促す研修のポイント
では、研修によって行動変容を起こすための具体的な施策にはどのようなものがあるでしょうか。前章で紹介した理論も踏まえ、従業員が自発的に学びや実践に取り組めるような仕組みをステージごとに設けることが重要です。
加えて、研修の効果を上げるには研修前後の施策こそが重要であることも押さえておきましょう。研修効果に影響を与える要素は、以下のような割合になるという「ブリンカーホフの法則」が知られています。
研修前の要素4割:研修そのものの要素2割:研修後の要素4割
研修前
研修実施前には、目的に沿った研修設計に加えて、無関心期から関心期への移行を促す働きかけが不可欠です。
研修計画は研修の目的(=達成したい成果)に沿って立案する
そもそも研修は、何らかの成果に向けたものでなければ実施する意味がありません。受講者に研修で何を身に付けてもらいたいか、まず運営側が明確にしましょう。その指標としてどういった数値や行動変容を期待するのかを具体的に設定し、それに沿って計画を立てます。
受けるべき研修を明確に提示する
ナッジ理論の項で紹介した通り、意思決定は簡単であるほど行動のハードルを下げられます。従業員が、自身の受講すべき研修を調べ、スケジュールを調整し、申し込み……といった研修を受けるまでのプロセスは、できるだけ簡略化すべきです。
従業員ごとに異なる研修や教材コンテンツを、正確に効率良く管理するには、LMSによる受講管理が便利です。例えば、ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」は、次に学ぶべきコンテンツがトップ画面に表示されるので、従業員が迷わずに学習を進めることができます。
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受講者が研修の目的を意識し、課題や目標を自覚するような働きかけを行う
受講に先立って研修の目的や自身の課題を知っておくことで、研修に臨むモチベーションは大きく変わります。受講案内とともに必ず研修の目的を周知しましょう。事前アンケートや課題で、研修のゴールや現状の課題を意識させることも有効です。
ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」のスキル管理機能は、従業員に求めるスキルと、それを獲得するための学習コンテンツとのひも付けを行うことができます。職種やポジションごとに必要なスキルをマトリクス表示する「スキルマップ」により、従業員は自身の目標と自身の現在地、さらに必要な学習内容をいつでも確認できます。
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行動変容によって解決できることを伝える
研修の目的と合わせて、具体的に目指すべき行動変容についても事前に伝えておくと、より良いでしょう。何が解決できるか、逆に現状のままではどのような機会損失があるかを認識させることで、受講者は職場での実践イメージを深め、行動変容を意識して研修に臨むことができます。
研修時
研修実施時は、関心期から準備期への働きかけを行います。ノウハウや実践のためのプロセスを確実に伝えること、加えて実行へのモチベーションを上げることが欠かせません。
研修内容は実際の業務に即したものにする
研修では知識を得るだけでなく、職場でどのように実践するかまで分かることが大事です。受講者の実際の業務に即したケーススタディー、また電話応対研修などテーマによってはロールプレイングも効果的でしょう。
前向きなフィードバックで行動を後押しする
インプットした知識を行動としてアウトプットするために、ロールプレイングや実践に向けたコミットメントといった、具体的な行動を伴うプログラムを設けると良いでしょう。実践する姿勢を評価し一層の行動を促すような、肯定的なフィードバックを返すことも重要です。
アンケートやレポートで実践への意欲を高める
職場に戻ってからの実践を強く意識付けるために、研修終了時に行うアンケートや受講レポートが活用できます。業務でのアクションプランを立てさせる、実践する意欲を定量的・具体的に問うなどです。
研修後
研修実施後は、実行期から維持期に当たります。業務での実践を促し、行動を定着させるような働きかけが必要です。
間を置いて実践度合いをチェックする
学んだ知識の定着やアクションプランの実行の様子を確認するには、研修から数週間後~数カ月後など一定の期間を置いた調査が適しています。
ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」にはさまざまな形式に対応したアンケート機能があり、研修やeラーニングと自在に組み合わせて一連のスケジュールを設定できます。
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上司・職場の支援を得る
従業員が学んだことを職場で実践する機会をつくり、また周囲からも実践に向けた声掛けをしてもらうように、上司や職場を巻き込んだ体制が望ましいでしょう。このためには、研修受講への理解・協力は言うまでもなく、研修の目的や目指す行動変容についてもあらかじめ理解してもらう必要があります。
周囲との関わりで意欲を維持・向上する
それぞれが個人で実践するだけではなく、他者との関わりを組み込むことで、行動変容はより促進されます。
研修からそれぞれの職場に戻った後も、受講者同士で意見交換を行ったり、実践状況を共有したりといった場があることが理想です。チームや組織全体に向けてアクションプランを公開するなど、コミットメントを取り入れるのも有効でしょう。
ライトワークスのLMS「CAREERSHIP」には社内SNSに当たる「ルーム機能」が搭載されており、受講者同士のディスカッションやナレッジシェア、指導者からのフィードバックなど、さまざまなコミュニケーションが可能です。研修やeラーニングで学んだことを補完・アウトプットする場を提供し、ソーシャルラーニングを実現します。
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研修を通じて行動変容に取り組む企業事例
最後に、行動変容を重視して人材育成に取り組む企業の事例を2社紹介します。ただ知識の習得に終わらず実践する重要性を従業員自身が実感し、業務の中で自然と取り組めるような仕組みづくりは、業種を問わず参考になるのではないでしょうか。
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
ふくおかフィナンシャルグループでは、急速な事業環境の変化に対応できる多様な「人財」の育成のため、自律的な学びの促進に取り組んでいます。
核となるデジタル技術の学びについて、行動変容を促すことを重視する方向性の下、施策が進められました。デジタル技術の必要性を伝え、ポジティブに学ぶマインドを醸成するために、さまざまな工夫が行われています。
例えば、eラーニングに組み込まれた社長メッセージでは、デジタル技術の習得自体が目的ではなく、担当者の行動を変え「お客様により良いサービスを提供する」ことが目的という点が強調されています。
また、社内のDXを進めていく際には、個人にとって身近な業務プロセスの変革を「まずは実践する」ことが重視されています。個人に「自身の業務が楽になる」という実感・メリットを得てもらい、その成功体験を通じてデジタルに対する苦手意識を軽減することを狙うものです。
加えて取り組まれているのが、学んだ知識をアウトプットする場の整備です。中堅層が講師となって若手層向けに行う研修や、勉強会や技術交換会で学び合うネットワークづくりが実施されています。
株式会社JTB
「自律創造型人財」育成のミッションの下、研修改革に取り組むJTB。基本方針とされたのが「必要なときに必要な学びの機会を提供する」「行動変容の機会を提供する」の2点です。質の高い教育コンテンツや学びやすい環境の整備に加え、特徴的なのが、行動変容につながるようなきっかけや機会の提供を重視している点です。
行動変容を促す仕組みの1つが「アクションプランシート」です。受講者自らが研修前後を通じて、目標や学んだ内容の活用方法、実践状況や改善方法などを記入していきます。各人のアクションプランシートはLMS上で共有され、上司や従業員同士がお互いにいつでも内容を確認できます。
「アクションプランシート」は、「この研修を受けるとどのような力が身に付くのか」を定義した「レッスンルーブリック」と関連しています。「レッスンルーブリック」は、各研修の目的と企業が求める人材像とのつながりを明確にしながら、習得度合いを段階別に規定したもので、各レベルは「率先して電話対応できる」などのように行動(思考・判断・表現含む)で表されています。
「レッスンルーブリック」に基づいて「アクションプランシート」を作成することで、受講者が研修で学んだことを自分の業務と結び付けて実践できる仕組みが整っているのです。
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まとめ
研修の成否は行動変容と不可分の関係にあります。研修で学んだ知識・スキルはその場限りで終わりではなく、定着し業務で実践されてこそ成果をもたらすためです。
行動変容ステージモデルによれば、人が行動を変えるまでには以下の5つのステージをたどるとされます。
無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期
対象者がどのステージにいるかを把握し、それぞれのステージに合った働きかけが求められます。人間の行動特性を踏まえて最良の選択を後押しする「ナッジ」を活用すると良いでしょう。具体的な施策には、ナッジ理論の代表的なフレームワーク「EAST」が参考になります。
- Easy(簡単)
- Attractive(魅力的)
- Social(社会的)
- Timely(タイムリー)
研修で行動変容を促すには、従業員が自発的に学習や実践に取り組めるような仕組みを、ステージに応じて設けることが重要です。特に、研修前後の施策が重要であることを押さえておきましょう。
研修前(無関心期~関心期)
- 研修計画は研修の目的(=達成したい成果)に沿って立案する
- 受けるべき研修を明確に提示する
- 受講者が研修の目的を意識し、課題や目標を自覚するような働きかけを行う
研修時(関心期~準備期)
- 研修内容は実際の業務に即したものにする
- 前向きなフィードバックで行動を後押しする
- アンケートやレポートで実践への意欲を高める
研修後(実行期~維持期)
- 間を置いて実践度合いをチェックする
- 上司・職場の支援を得る
- 周囲との関わりで意欲を維持・向上する
最後に、人材育成施策で行動変容に取り組む企業事例として、ふくおかフィナンシャルグループとJTBを紹介しました。実践することの重要性を従業員が実感し、自然と実践に取り組める仕組みづくりが参考になるでしょう。
研修の成功に、受講者の行動変容は欠かせません。実践への意欲を高め、真に業務に役立つ研修の実施に向けて、この記事をお役立ていただけると幸いです。
参考)
Kirkpatrick Partners「What is The Kirkpatrick Model?」,https://www.kirkpatrickpartners.com/the-kirkpatrick-model/(閲覧日:2024年12月2日)
松本千明「行動変容ステージモデル」,『厚生労働省e-ヘルスネット』,https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html(閲覧日:2024年12月5日)
厚生労働省「明日から使えるナッジ理論」,https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000500406.pdf(閲覧日:2024年12月5日)
環境省「意識変革及び行動変容につなげるナッジの横断的活用推進事業御説明資料」,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/agile_seisaku_wg/dai2/siryou4-1.pdf(閲覧日:2024年12月5日)
IPA 独立行政法人 情報処理推進機構「事例企業における自律的な学び促進の取組み」,https://www.ipa.go.jp/jinzai/chousa/m42obm0000008q65-att/skill-henkaku2023-torikumi.pdf(閲覧日:2024年12月5日)