「大人数・多拠点の大規模運用に適したLMSはどう選べばよいだろうか?」
近年、eラーニングは多くの企業で一般的になりました。導入しやすいクラウド型のLMSがさまざまなベンダーから提供され、導入のハードルは低くなってきたと言えるでしょう。
一方で、大企業やグローバル企業では、複数の拠点や幅広い業種・業務に対応できる高度な機能やサポートが求められます。汎用的なLMSでは対応しきれない部分も多く、LMSのリプレイスや新規導入を検討するケースが増えています。
本記事では、大企業がLMSを選ぶ際の重要ポイントや導入プロセス、注目すべき最新トレンドを紹介します。大企業ならではの課題に応えるLMSをお探しの方は、ぜひ参考にしてみてください。
AIで要約
- 大企業ではe ラーニングが普及し、LMS に高度な管理機能と学習効果測定、使いやすさが求められます。
- 大企業向けLMS 選定は、柔軟性と拡張性が重要です。多拠点・多言語に対応し、カスタマイズ性も求められます。
- LMS 導入・リプレイス成功には、要件定義と関係者連携が不可欠です。トライアルや移行計画も重要です。
「LMS(学習管理システム)には一体どのような機能があるのだろう?」 近年、DX […]…
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大企業向けLMSが求められる背景と最新トレンド
矢野経済研究所は、企業向け研修サービス市場規模について、2023年度は前年度比4.3%増の5,600億円と推計、2024年度は同3.6%増の5,800億円との予測を公表しました1。企業の高い人材採用意欲が続き、また人的資本経営への取り組みが拡大する中、教育投資への意欲は拡大傾向が続くと予想されます。
そのような中、企業における教育手段として主流になっているとも言えるのがeラーニングです。特に大企業では、何らかの形でeラーニングを取り入れているところが多いのではないでしょうか。一方で、大企業であるからこそ、研修の管理・運営側に求められることはより高度になっています。
eラーニングの普及と課題の複雑化
eラーニングが広く普及するとともに、学習プラットフォームであるLMS(学習管理システム)に求められる管理機能は高度化してきました。加えて、大企業ならではの事情、例えば拠点が国内外にまたがっている、業種・職種が多岐に渡っているといった複雑な運用に対応できるLMSは限られてきます。
海外を含めた複数の拠点に対してeラーニングを実施する場合は、国際的なセキュリティーやコンプライアンスの基準に対応しなければなりません。もちろん言語対応は必須です。
加えて、多岐に渡る業種・職種の教材や大勢の従業員の学習データを一元管理する必要があります。グループ会社や代理店、協力会社なども受講対象とする場合、複雑な組織構成や管理体制に対応した教材配信や権限設定が求められるでしょう。
LMSのクラウド化とSaaSモデル
LMSはかつて主流だったオンプレミス型に代わり、インターネットを介するクラウドベースの製品が拡大しています。
クラウド型の中でもSaaSと呼ばれるビジネスモデルは、ベンダーがクラウドサーバー上で提供するサービスを利用する形態を言い、導入コストを抑えてスピーディーに利用開始できるのが大きなメリットです。
ただし大企業の場合は、自社サーバー上に構築するオンプレミス型、あるいは自社専用のクラウド環境を構築するプライベートクラウド型が適する場合もあります。導入しやすさだけに飛びつかず、比較検討は必須と言えるでしょう。
オンプレミス型は以下のようなメリットが期待できます。
- カスタマイズの自由度が高く、自社の要件に合った設計が可能
- セキュリティー性の高さ・トラブル時の原因特定のしやすさ
- 月額料金が発生せずトータルコストを抑えられる可能性がある
一方で、高額になりがちな開発費用や保守費用、運用開始までの期間や教材調達の手間などは大きなネックと言えます。総合的に検討し、自社のニーズに合う形態を選びましょう。
ラーニングエクスペリエンスプラットフォーム(LXP)の台頭
LMSに加えて、DXの普及や情報コンテンツの飛躍的な増加に伴い注目度が高まっている学習プラットフォームが、LXP(Learning Experience Platform:学習体験プラットフォーム)です。
LXPは文字通り「体験」に重きを置いたプラットフォームであり、学習環境をユーザーに応じてパーソナライズできることが大きな特徴です。具体的には、社内外の優良コンテンツから、ユーザーの関心度合いが高い、あるいは関連性の高い情報を学習コンテンツとして表示することができます。ユーザーは自ら学ぶべき内容を選定し、あるいはレコメンドされたコンテンツによって、個人に最適な学習環境を整えていくことができるのです。
SNSやインターネット検索サイトなどを含む幅広いコンテンツを学習リソースとして利用できる点も、LXPの大きな特徴です。企業に閉じた内容だけでなく、一般教養やグローバルスタンダードなどについても、広く情報を取り入れながら個人の研さんを積むことができます。
人的資本経営時代にあって、企業には、従業員がスキルアップやキャリア形成を見据え、自主的・能動的に学べるための環境づくりが求められるようになっています。特に戦略的な人材投資が不可欠と言ってもよい大企業にとって、LXPは今後も重要性を増していくでしょう。
大企業向けLMSを選定する際のチェックポイント
大企業がLMSの選定にあたりチェックすべきポイントをまとめました。
LMSの柔軟性とカスタマイズ性
前章でも述べたように、大人数・多拠点の従業員の学習管理には、LMSの柔軟性は欠かせない要素です。以下のような機能を備えているか確認するとよいでしょう。
大人数・多拠点への対応
大規模運用には相応の性能やインフラ基盤が必要なため、想定利用人数で安定稼働するLMSを選ぶ必要があります。組織構造に応じてグループや権限を細かく設定できるかもチェックしましょう。
本社以外の拠点、またリモートワークや作業現場などで利用する場合は、マルチデバイス対応やアクセス、セキュリティーなどの要件をクリアしなくてはなりません。
海外拠点を含む運用の場合、言語やセキュリティー面でグローバルに対応していることが必須です。ISOやSOC 2(※1)、GDPR(※2)といった国際基準への対応状況もチェックポイントになるでしょう。
※1 SOC 2(System and Organization Controls 2):米国公認会計士協会が定めた、情報セキュリティーやプライバシーなどの管理体制を評価・保証するための報告書
※2 GDPR(General Data Protection Regulation):欧州連合(EU)が定めた、EU域内の個人データ保護を規定する法
利用できる学習コンテンツの幅
多様な業種や職務に対応するには、幅広い学習コンテンツを利用できなければなりません。教材の追加や最新情報を踏まえたアップデートがすぐ行えることも重要です。
一般に、eラーニングにはSCORMという標準規格があり、これに準拠するLMSと教材は相互に組み合わせることが可能です。自社オリジナル教材を利用したい場合、教材のカスタマイズや教材制作サポートに強いベンダーが選択肢になります。
近年、LMSはeラーニングの配信・管理だけでなく総合的な学習プラットフォームとしての役割が求められるようになっています。動画配信やオンライン研修、そして集合研修といった研修形態も含め、従業員の学びを一元管理できるLMSが望ましいでしょう。
さらには、研修を組み合わせて独自のカリキュラムを設定できる、さまざまな形式のアンケートやテスト、レポート課題に対応しているなど、自社の教育設計に対応できる柔軟性もチェックポイントです。
外部カレンダー同期
研修スケジュールをGoogleカレンダーなどの外部カレンダーに同期する機能です。ユーザーが普段利用しているカレンダー上で研修情報を把握できるため、スケジュール管理の手間を大幅に減らすことができ、受講漏れ防止や学習スケジュール管理に役立ちます。
スキル管理機能
多くの従業員を抱える企業の人材戦略に、スキル管理は不可欠と言えるでしょう。LMSには自社が従業員に求める能力を職務やレベル別に可視化し、学習コンテンツや資料などとひも付けて表示できる製品もあります。
従業員は自身の目標と現在地を常に確認でき、目標達成に必要な学習に取り組むことができます。また達成基準を明示することで、透明性の高い評価制度の実現にも役立ちます。
人材データベース機能
各人に適した学習コンテンツを提供し、また学習の成果を評価や人材配置などの人材施策に活用するには、人材情報のデータベース化は欠かせません。
従業員の職歴や経験・スキル・学習履歴などをLMSで一元管理することで、人材データの把握や活用が容易になります。タレントマネジメントシステムとの連携に優れたLMSもあり、発展的な人材データ活用に役立ちます。
コミュニティー(社内SNS)機能
与えられた学習の場ではなく、日常的に、フラットなコミュニティーで学んでいくインフォーマルラーニングは、学習意欲の向上や学習内容の定着に効果が期待できます。中でもSNSを介するソーシャルラーニングは、より柔軟なコミュニティーを通じた学びで、新しい知見やノウハウを得られる可能性が広がります。
大企業ならではの多様で豊富な人材は、相互の学び合いという面でも大きな可能性を持つのではないでしょうか。社内SNSなどのコミュニティー機能を備えたLMSなら、そうした学びを後押しするでしょう。
LMSの連携機能・拡張性
LMS本体に搭載された機能に加え、他のシステムと連携できるかという点も選定の重要なポイントです。
人事システムなどとのデータ連携
各人に適した学習コンテンツを速やかに提供し、また学習の成果を人材施策に活用するには、人事システムとのデータの自動連携は必須と言えるでしょう。組織変更や人事異動に遅滞なく対応するためにも欠かせない機能です。
他にも、タレントマネジメントシステムやERPなど、他システムとLMSを連携してデータを活用したい場合は、連携の可否をチェックしましょう。
こうした外部システムとの自動連携で重要な機能が、API連携です。APIとは簡単に言うとシステム間をつなぐインターフェースであり、APIが充実したLMSはさまざまなシステムとの連携や機能の拡張を可能にします。
SSO連携
社内で複数のシステムを利用する場合、LMSがシングルサインオン(SSO)に対応していることも重要な機能です。一度のログインで複数のサービスへのログインが自動化できる機能であり、代表的な規格にSAML(Security Assertion Markup Language)があります。
受講者のログイン作業を簡略化できるとともに、パスワード忘れやパスワードの使い回しといった問題を避けられ、管理側の負荷低減が期待できるでしょう。Active Directory(※3)に連携できるLMSなら、より安全に、認証やユーザー管理を自動化できます。
※3 Active Directory:Windows Serverに標準搭載されている、ネットワーク上のリソースを一元管理するディレクトリサービス
LMSの運用コストとサポート体制
多くのLMSは初期費用と運用コストに分かれています。運用コストは規模以外にもさまざまな要件で大きく異なってくるため、LMSのコストを見通すには公開されている価格の比較だけでは不十分です。要件を明らかにして見積もりを依頼することをおすすめします。
また、大規模運用では特にサポート体制が充実していることが重要な要件になります。導入や運用の支援はどのレベルで必要か、日本語対応の有無など、ベンダーに求めるサポートの範囲を具体化した上で、総合的に比較検討する必要があるでしょう。
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LMSのレポーティングとアナリティクス機能
受講履歴や成績といったLMSに蓄積されるデータは、研修の効果を可視化する重要な材料です。ROI(Return on Investment:投資対効果)分析に必要なデータを取得・分析できるか確認しましょう。
例えば、学習進捗や成績を受講者ごと/研修ごとに切り替えて一覧で管理できる機能は、リマインドなどの受講管理や研修結果の把握に役立ちます。理解度テストやアンケートの配信・回収・採点、分析レポートの自動出力なども、管理者の手間を抑えながら効果測定に活用できる機能です。
LMSのUI/UXと学習体験
多くの人が使うシステムにおいて、使いやすさは軽視できない部分です。学習のモチベーションや受講完了率に関わるとともに、管理部門やサポート窓口の問い合わせ対応の手間を防ぎます。
快適な操作性
学習コンテンツを検索しやすい、ダッシュボードで自分が受ける研修が一目で分かるなど、直感的に利用できる画面設計は学習を促進します。また移動中や自宅などでの利用を想定する場合、スマホやタブレットで快適に利用できるマルチデバイス対応も重要です。
よりよい学習体験を促す機能
使いやすいだけでなく、学習意欲を高める仕組みを備えたLMSも見られます。例えばソーシャルラーニングを実現する社内SNS機能は、個人単位の定型的な受講では得られない学習体験を提供し、より質の高い学びにつながることが期待できます。
またLXPの解説で述べた通り、受講者の関心に合わせたコンテンツを表示するレコメンド機能は、従業員の自律学習を加速します。
管理機能の使いやすさ
管理者側がスムーズに受講管理を行える設計であることも重要です。前項でも述べたように、運営や効果測定にかかる手間を最小限にすることで、教育担当者が分析や改善施策の立案などより重要な部分に時間を割くことができます。
既存LMSからリプレイスする際の成功ポイント
大企業が新しいLMSへリプレイスして研修を改善したい場合に、押さえておきたいポイントを整理しましょう。
現行システムの問題点の洗い出し
リプレイス先のLMSに求める要件を定めるためには、まず現行システムの不満を明確にする必要があります。管理側・受講者双方の視点で整理しましょう。下記にいくつか例を挙げましたので、参考にしてみてください。
性能が現状に合っていない
例えば、古いシステムや、利用人数が当初想定より大幅に増えたといった場合、レスポンスの速度が不十分というケースは多いでしょう。レスポンスの悪さは学習効率を損ない、学びへの意欲をそぐことになりかねません。
古いシステムだと、規格の異なる教材が使えない、スマホでの受講に十分に対応していないなども問題になりがちです。新しい仕様に対応するためのアップデートで、改修コストがかさむ、システムダウンが多いといった問題を抱える企業もあるかもしれません。
セキュリティー要件を満たしていない
テレワークが広がり社外からのアクセスが一般的になったことで、セキュリティー要件の見直しが必要になった企業も多いのではないでしょうか。自社のセキュリティー要件のためにLMSにオフィスからしかアクセスできないとなると、eラーニングのメリットは半減してしまいます。
管理機能の不足
現行のシステムで教材配信や研修スケジュールの周知はしているものの、受講履歴や成績、アンケートなどは管理部門が手作業で集計しているという場合もあります。LMSは学習管理作業の多くが自動化可能なため、手作業で手間がかかっている部分を整理することをおすすめします。
またeラーニング・研修管理のシステムや運用が、部門やグループ企業ごとにばらばらというケースも散見されます。このような企業では、異動のたびにユーザーの登録作業が発生する、全社教育であっても部門ごとに教材配布が必要など、管理担当者が煩雑な業務に追われがちです。
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移行プロセスの事前計画
LMSのリプレイスでは、アカウント情報や受講履歴、コンテンツデータなどの既存データを円滑に移行する必要があります。手順や関係者との体制を早期に定めることが重要です。
ステークホルダーとの調整
リプレイス作業はベンダーと教育担当部門だけでなく、多くの関係者と調整を図りながら進めていく必要があります。IT部門や法務部門など、各部門の役割を明らかにし、具体的なマイルストーンを共有しましょう。
パイロット導入
新しいLMSへ一度に全面的に切り替えるのではなく、特定の分野や部門から段階的に導入していくこともおすすめです。使い勝手を確認でき、リスクを抑えながら導入効果を測ることができます。
パイロット運用で得られたデータはしっかり分析し、本格導入に向けた調整や改善に生かしましょう。全社展開に向けて、成功事例として社内に共有することにも役立ちます。
切り替え時期の決定
システムの切り替えにはサービス停止を伴う場合もあります。また後述するように、使い方のトレーニングなど導入に向けた準備も必要になります。実施時期は総合的に見極めるとともに、従業員や関係部署へ余裕をもって周知しましょう。
サポート体制の構築
新しいLMSの使い方に関する社内へのトレーニング計画や、導入時・運用開始後のサポート体制についてあらかじめ計画しておきます。受講者向けの操作方法に加え、グループ会社や部門の担当者に向けた管理機能のレクチャーも必要でしょう。
ベンダーとの連携体制、社内のヘルプデスクやFAQの準備など、スムーズな運用を支える体制を構築しましょう。また運用開始後のフィードバック収集や改善プロセスについても計画しておきます。
ステークホルダーとの連携
LMSの導入・リプレイスには、教育担当部門だけでなく、セキュリティーや法務を担う部門、現場リーダーなど、さまざまな関係者と調整が必要になります。リプレイスの目的を明確にし、関係部署がそれぞれの専門知識を生かして役割を担うプロジェクト体制を構築しましょう。
プロジェクトを進めるには、経営層、各部門やグローバル拠点の責任者など、多方面の承認を得なければいけません。会議体や経営層への進捗報告方法などコミュニケーション計画を立て円滑な進行を図ります。
大企業が導入したLMS事例・ユースケース
ここで、実際に大企業が行ったLMSの導入事例をいくつか紹介します。大企業ならではの課題やLMSに求める要件、それらに応える選定や導入の経緯など、ぜひ参考にしてみてください。
トヨタ自動車の事例
「モビリティカンパニー」へ向けて大規模な組織改革を行い、製品を軸としたカンパニー制へと体制移行したトヨタ自動車。「もともと教育が好きな会社」と言うように、各カンパニー、そして部門において、それぞれの専門性を高める教育を独自に行ってきました。
そうした点在する豊富な教育リソースを有効活用し、企業の変化に合った人材育成環境をつくるべく、人材開発部主導でLMSを導入します。それまでのオンプレミス型のeラーニングシステムから、クラウド型のLMSへのリプレイス。20社弱ものベンダーについて情報収集・精査を行い、さらに3社のトライアルを経てライトワークスのCAREERSHIPを選定しました。
機能や価格、セキュリティーなどに加え、採用の決め手になったのは使いやすさとベンダーの対応力・サポート力でした。5万人という利用規模において分かりやすさは大きな決め手だったと言います。受講者のみならず、教材コンテンツを掲載する教育担当者にとっての使いやすさも重視し、教材作成ツールにも評価をいただきました。
プロジェクトを進めるにあたっては、LMS導入という新たな投資について、必要性を理解してもらい承認してもらう最初の過程がもっとも大変だったと言います。カンパニーや部門に意見を丁寧にヒアリングして回り、トライアルに参加してもらって使い勝手を実際に確認してもらうなど、グループ全体を巻き込んでプロジェクトを進めていきました。
トヨタ自動車は、経営や組織の在り方を大きく変えようとしています。これからの人材育成と、その仕組みについてお話を聞きました…
タカラトミーの事例
タカラトミーは日本国内だけでなく、アジア地域や欧米諸国にもグループ会社が点在する大企業です。
全グループに企業としての方針をきちんと伝えようという目的でLMSの活用を考え、ライトワークスのCAREERSHIPを導入しました。同社が積極的に取り組むコンプライアンス活動のインフラとして、eラーニングや動画配信、アンケート調査など、LMSの機能を幅広く利用しています。
全社員とつながる唯一のシステムとして情報共有には必ず使うと言い、実に11カ国・8言語での配信を実施。国をまたがる大規模運用にも関わらず、運用については本社の内部統制・監査部の3人のみで多地域・多言語配信を実現していると言います。
タカラトミーグループでは、LMS(学習管理システム)を活用してグループ全社員との繋がりを構築し、個々の社員がコンプライア…
日本財団の事例
日本財団ボランティアサポートセンターは、日本財団グループのノウハウを生かし、ボランティア育成や研修環境の整備などのサポートを行う組織です。大規模スポーツイベントのボランティアを対象とした事前研修のeラーニングに、LMSを導入しました。
ボランティアの数は数万人にも上り、高齢者や障害のある人も含む多様な人々で構成されます。そこで、アクセシビリティーの品質基準「JIS X 8341-3:2016」に準拠することがLMSの重要な要件となりました。加えてセキュリティー要件やシステム障害時の対応など多くの要件があり、全てをクリアしたCAREERSHIPが選定されました。
他に、動画視聴の速度調整など受講者視点での使いやすさ、1万人を超す大規模運用の実績が豊富にあることも採用の決め手となったと言います。
このeラーニングで特徴的だったのが、ボランティアの運用管理に携わる9つの地方自治体が研修の主体であるという点です。各自治体にヒアリング・確認しながら、運用する自治体職員の作業負担を極力減らすシンプルな設計を目指し、ベンダーであるライトワークスのサポートの下、必要最小限の機能に絞り込みました。
自治体の担当者に向けた運用管理のための研修会は、1人1台のPCで実際に操作しながら必要な操作の体得を目指す形で行われました。結果、運用管理に関する問い合わせはほとんどなく、非常にスムーズに質の高い研修ができたと言います。
大規模スポーツイベントを支える数万人のボランティアの方々。その研修にはeラーニングが活用されています。研修の運用管理や、…
LMS導入・リプレイスで失敗しないための注意点
最後に、大企業でのLMSの導入・リプレイスを失敗に終わらせないために気を付けるポイントをまとめました。
要件定義が曖昧なまま進めない
求める機能や操作性などの要件を固め切らないまま導入すると、実際に利用してみてから「使いづらい」「思っていた機能と違う」という事態になってしまうかもしれません。
トラブルを避けるため、関係者へのヒアリングやベンダーとの確認を綿密に行い、要件定義を徹底しましょう。先述した「大企業向けLMSを選定する際のチェックポイント」で挙げた機能や、「現行システムの問題点の洗い出し」も参考にしてみてください。
要件を明確にすることで、見積もりの精度も上がりますし、工程の手戻りを防止できます。複数のベンダーに見積もりを取る段階では、同一の要件を提示することで比較しやすくなります。
現場の声を反映しないままトップダウンで決めない
教育担当部門の主導でLMSを導入する場合でも、現場の声を軽視して進めないように注意しましょう。せっかくLMSを導入しても、受講者にとって使い勝手が悪いと学習意欲がそがれ利用率が低迷しがちです。またコンテンツや機能が現場部門のニーズに応えるものでないと十分な活用は見込めません。
大企業では関係部門が多岐に渡ることが多いですが、現場からのフィードバックを取り入れ、実際に利用する従業員の視点でLMSの選定や設計を進めることが重要です。
ベンダー比較やトライアルを怠らない
複数のベンダーから提案を受け比較検討することで、自社のニーズに最適なシステムを選定できます。サポート体制などの確認も忘れず、長期的に運用しやすいシステムを選ぶことが、失敗を防ぐための重要なステップです。
またLMSの導入前に必ずトライアルを行い、実際の操作感や機能性を確認することが大切です。最終的な選定には「トヨタ自動車の事例」で紹介したように、複数の製品でトライアルを行い、UIやレスポンスの違いを検証するとよいでしょう。
セキュリティー要件を後回しにしない
LMSは個人情報や企業の機密情報を扱う可能性があるため、適切なアクセス管理やデータ暗号化、監査ログなどのセキュリティー対策を徹底しなければなりません。
情報漏えいはその社会的影響の大きさから、特に大企業にとっては大きなリスクです。セキュリティー対策は優先度の高い要件として、導入検討の初期から明確化しましょう。
まとめ:大企業がLMSを活用して成長を加速させるために
大企業にとってLMSは単なる研修管理ツールではなく、人材開発戦略の基盤として重要度が増しています。
リプレイスや新規導入の際は、要件定義・移行プロセス・サポート体制などを慎重に検討することで、コスト削減とスキルアップの両立が可能になります。ステークホルダーとの調整・連携を図りながら進めましょう。
本記事では、大企業のLMS導入事例としてトヨタ自動車・タカラトミー・日本財団のケースを紹介しました。いずれも大規模運用に対応し、またそれぞれの導入目的をかなえるため、徹底した要件定義や選定の経緯がうかがえます。
さまざまなLMS製品がある中、企業の規模や要件によって最適な製品や導入方法は異なります。大企業ならではの要件を整理し、最適なLMSを選定するために、本記事をお役立ていただけると幸いです。
企業向けeラーニングシステム10件をポイントごとに比較! ⇒ 「eラーニングシステム徹底比較Book」を無料ダウンロードする
- 矢野経済研究所「企業向け研修サービス市場に関する調査を実施(2024年)」,(閲覧日2025年2月27日) ↩︎
参考)
AICPA & CIMA 「SOC 2® – SOC for Service Organizations:Trust Services Criteria」, https://www.aicpa-cima.com/topic/audit-assurance/audit-and-assurance-greater-than-soc-2(閲覧日:2025年3月16日)
個人情報保護委員会「EU(外国制度) GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」 ,https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/EU/(閲覧日:2025年2月27日)
マイクロソフト「Active Directory Domain Services の概要」,『Microsoft Learn』,https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-server/identity/ad-ds/get-started/virtual-dc/active-directory-domain-services-overview(閲覧日:2025年2月27日)